整形外科でのAR顕微鏡手術について

AR顕微鏡

AR(Augmented Reality)は、日本語では「拡張現実」と訳され、現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。スマートフォンの画面などを通じて、実際の風景にCGなどで作られた仮想物体を反映させ、あたかも現実世界に存在するかのように表示することができます。近年では、ARを用いたスマートフォンのゲームアプリが流行したことも、記憶に新しいのではないでしょうか。

手術に用いる顕微鏡は、術野(手術を行っている見える部分)の拡大観察ができる機器ですが、AR顕微鏡は、手術顕微鏡にARの技術を利用して、手術前にMRIやCTで作成した腫瘍や周囲の神経・血管構造などを見やすく表示できる顕微鏡となっています。

当院の取り組み

当院整形外科では、今年の4月から、脊髄腫瘍に対してAR顕微鏡を用いた手術を開始しました。AR顕微鏡手術はこれまで主に脳神経外科の領域で発展してきた技術ですが、整形外科としては、全国で扱う施設は少数です。

また、脊髄腫瘍は、文字通り脊髄の内側や外側に腫瘍ができる病気で、背骨の中で大きくなった腫瘍が神経を圧迫することにより、痛みやしびれ、運動麻痺などを生じさせます。この病気は、年齢、性別問わず、誰にでも発症する一方、10万人あたり1〜2人の発生(脳腫瘍が10万人あたり10〜12人)と数は多くありませんが、当院ではAR顕微鏡手術の開始以来、7例の手術を行いました(令和4年7月8日現在)。

手術を行うことになった場合、手術前にCTやMRIなどで得た詳細な情報から、入念な手術計画を行います。AR顕微鏡を用いた手術では、実際の術野に手術計画をトレースすることで、腫瘍の位置や大きさ、周辺の注意すべき神経、血管などについて、色を変えて表示することができます。そのことによって、不必要な骨の切除や、神経・血管などの損傷を防ぎ、従来よりもさらに安全かつ正確に手術できることが期待できます。

今後について

現在、当院でのAR顕微鏡手術の適用は脊髄腫瘍のみですが、ヘルニアや脊柱管狭窄症などの顕微鏡手術を行うその他の病気に対しても対象を拡大していくことも考えられます。

また、術野が見えやすくなることで、初めて取り組むような症例や、難しい症例に対しても、より正確な手術を行えることが期待できますし、さらには、若手医師の教育においても活用していけるものと考えています。 

(左)Zeiss社顕微鏡Kinevo900(右)ブレインラボ社CURVEナビゲーションシステム  【画像提供:ブレインラボ株式会社】

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